同じ豆腐を食べても、体に残るものが違う

納豆、豆腐、味噌汁。 これだけとっていれば大豆の恩恵は受けているに違いない、と考えるのは自然だ。

ところが、同じような食事をしている人の尿を調べると、検出される成分が二つに分かれる。 片方からはエクオールが出る。 もう片方からは、ほとんど出ない。 差を作っているのは食べた量ではなく、腸の中にいる菌である。

腸内細菌が作る代謝物

大豆イソフラボンにはいくつかの成分が含まれていて、そのうちの一つがダイゼインである。 このダイゼインが腸に届くと、一部の腸内細菌がこれを別の物質に作り変える。 こうして生まれるのがエクオールで、<cite index="2-1">大豆イソフラボンのままでいるよりも強く働くことがわかっている</cite>。

問題は、この変換を担う菌を誰もが持っているわけではない点にある。 <cite index="5-1">産生できる人の割合は研究によって幅があり、欧米で20〜30%、日本人では50〜60%と報告されてきた</cite>。<cite index="1-1">近年の調査では、日本人でも約3割という結果も出ている</cite>。 菌を持たない人では、ダイゼインはエクオールにならないまま吸収されて出ていく。

気になる報告が一つある。 <cite index="1-1">更年期症状の重さと尿中の排泄量を調べた研究では、症状の重い人ほどエクオールの排泄量が低かった。一方でイソフラボン自体の排泄量には、症状の重さとの関連が見られなかった</cite>。 症状が重いから作れないのか、作れないから重いのか、この結果だけでは決まらない。 ただ、大豆をどれだけ食べたかよりも、それを何に変えられるかのほうが体感に近いところにある、という見当はつく。

体内でエクオールが作れなければエクオールサプリを飲めばいい

作れないなら、材料を増やせばいい。 そう考えたくなるが、この道は二か所で行き止まりになる。

一つめは、菌がいない場合である。 <cite index="2-1">産生菌を持たない人では、大豆イソフラボンを摂取してもエクオールには代謝されない</cite>。 材料をいくら積んでも、変換する側がいなければ生成量はゼロのままだ。

二つめは、作れる人にとっての量の問題である。 <cite index="2-1">エクオールを10mg作るには、およそ50mgの大豆イソフラボンが必要になる。食品でいえば豆腐なら3分の2丁、納豆なら1パック、豆乳ならコップ1杯にあたる</cite>。 一日だけならどうということはない。 これを毎日欠かさず、というところで多くの人が脱落する。

そして、大豆イソフラボンを濃縮したサプリメントで一気に足す方向にも天井がある。 <cite index="20-1">食品安全委員会は、大豆イソフラボンの安全な一日摂取目安量の上限をアグリコン換算で70〜75mg/日と設定している。閉経後女性が150mg/日を5年間とり続けた海外の試験で子宮内膜増殖症の発症が有意に高かったことが、この値の根拠の一つになっている</cite>。<cite index="21-1">日常の食事への上乗せ分については、30mg/日の範囲に収まるようコントロールできるなら安全性上の問題はない、という考え方が示されている</cite>。

この行き止まりの両方を迂回する製品がエクオールを配合したサプリだ。 イソフラボンを増やすのではなく、変換後の物質を直接入れる。 菌がいるかどうかは関係なくなるし、上に挙げた上限値も、あくまで大豆イソフラボンについて設定された値であって、エクオール製品にそのまま当てはまるものではない。

理屈としては通っている。 残る問いは、「それで症状が軽くなるのか」である。

エクオールサプリの有無でホットフラッシュが減る回数は○回

臨床試験がある。 <cite index="8-1">エクオールを産生しない45〜60歳の閉経後女性126人を、エクオール10mgを摂取する群とプラセボ群に分け、12週間毎日とってもらったところ、プラセボ群に比べてホットフラッシュの回数が有意に減少した</cite>。 対象を非産生者に絞っているところが、この試験の設計として効いている。

ただ、この一件だけで決まる話でもない。 複数の試験をまとめて見ると、様子が変わる。

<cite index="13-1">6件の研究(計779人)が系統的レビューの基準を満たし、うち5件(計728人)がメタ解析に含められた。5件のうち2件は統計的に有意な利益を報告しておらず、残る3件が有意な効果を報告している。統合した結果としては、ホットフラッシュのスコアを下げる有意な効果が認められ、バイアスのリスクはおおむね低いと評価された</cite>。 つまり、効果はある。ただし、どの試験でも同じように出るわけではない。

効果の大きさについては、<cite index="10-1">1日あたりホットフラッシュが約0.9回減る程度、という中程度の見積もりが示されている。国際的なガイドライン上は標準治療ではなく、補完的な選択肢として検討されうる位置づけになる</cite>。

0.9回という数字は平均である。 誰の体でも0.9回減る、という意味ではない。 ホルモン補充療法の代わりに置ける強さではないし、飲めば消えると期待して始めると、たいてい期待のほうが折れる。

<cite index="8-1">なお、同じく非産生者を対象とした試験では、目尻のシワ面積の拡大がエクオール摂取群で有意に抑えられたという報告や、骨密度に関する約1年間の試験も行われている</cite>。 更年期の不調に限らず調べられてはいる、という程度に受け取っておくのがよさそうだ。

エクオールの産生能力を調べる方法は?

産生能は生まれつき決まって動かない、というものでもない。

<cite index="5-1">年齢が下がるほど産生者の比率は低くなり、40歳以上ではほぼ半分なのに対して、30歳未満では4人に1人しか作れていなかったという集計がある</cite>。 食生活の変化が腸内環境の違いとして現れている、と考えられている。

<cite index="4-1">作れる人であっても、産生能力は腸内環境に左右される。材料となる大豆食品をとらなければ、当然エクオールも作られない</cite>。 菌を持っていることと、その菌が働いていることは別である。

自分がどちらなのかは、食生活を振り返っても判別できない。 <cite index="5-1">吸収されたイソフラボンやエクオールは体で作用したあと翌日には尿から排泄されるため、尿を調べることで産生の有無がわかる</cite>。 サプリメントを何か月も試して手応えを探るより、先に測ってしまうほうが早い。

エクオールサプリを飲む前に確かめておくこと

<cite index="10-1">短期的な安全性はおおむね良好とされる一方で、長期の安全性や、リスクの高い人での使用については未確立である</cite>。 乳がんの既往がある人、ホルモン治療を受けている人、婦人科系の疾患がある人は、自己判断で始める場面ではない。

もう一つ、総量の話がある。 <cite index="21-1">大豆イソフラボンの総摂取量を抑えたい場合は、イソフラボンを濃縮・強化した食品からの摂取を控えるべきだとされている</cite>。 エクオール製品と大豆イソフラボンのサプリメントを両方飲む形になっていないか、手元の製品表示を一度見ておくとよい。

まとめ

毎日の納豆と豆腐が無駄だった、という話ではない。 産生菌を持っている人にとって、大豆食品は材料そのものだ。

ただ、その材料が体の中で何になっているかは、食卓の側からは見えない。 同じ味噌汁を飲んだ二人のうち、一人の体にはエクオールがあり、もう一人にはない。 エクオールのサプリメントは、この見えない分かれ目の、片側にいる人のために作られている。つまり、エクオールを作れる人にとっては意味がない。

自分がどちら側にいるのか。 それを確かめないまま飲み始めても、効かなかったときに、効かなかった理由のほうがわからなくなる。